CCCは地方都市の文化を救うか―『文化の樹を植える。「函館 蔦屋書店」という冒険』感想
こんにちはsatkapです。
少し前の話題になりますが、
CCCが指定管理者で運営する武雄市図書館が開館し、連日多くのメディアでも話題となっていますね。
今日は、satkapが以前から追っている函館蔦屋書店について、
『文化の樹を植える。「函館 蔦屋書店」という冒険』の感想を中心に、書いてみたいと思います。
ご参考にどうぞ:
- 函館蔦屋書店の出店についてのブログ記事はこちら
- CCCの高橋聡氏が登壇した図書館総合展でのフォーラム記事はこちら
では、以下『文化の樹を植える。「函館 蔦屋書店」という冒険』のなかでsatkapの関心に引っかかった部分の
引用・まとめです。
- 作者: 楽園計画
- 出版社/メーカー: ネコ・パブリッシング
- 発売日: 2013/03/28
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (4件) を見る
プロポーザルの経過について詳しく知りたい、という方や、書店や空間に関する思想について知りたい、という方は
ぜひ本書をお読みいただければと思います。
函館蔦屋書店の目的
- カルチャーのコンプレックス((ここでは複合施設という意味か))として、より活性化するセンターとなる
- コミュニティが再生する場の創造
- 代官山蔦屋書店の成功を踏まえ、地方のロードサイドに展開するための実験的試みとしての意味も
函館蔦屋書店の目指すもの
- TUTAYAの良さと、その土地ならではの魅力が融合したその土地にしかない店舗
- 親子3世代が一緒に楽しめる店
- プレミアエイジ、プレミアジュニア、孫の3世代
- 地域の活性化、コミュニティデザイン
- 共通の関心や趣味などを通じてゆるやかにつながり合うコミュニティ
- そうした活動の拠点となる場
函館蔦屋書店が出来るまで
- CCCが基本構想を説明するオリエンテーションを開く
- 最初の段階から施行を担当する建設会社と共同で提案内容をまとめてほしいという条件でプロポーザルを実施
- 究極のローコストを求める
- 規模に比しての予算額をきいて「これはすでに”ローコスト”ですらない」とうめいた建築家がいたという
- 建築家が第1次提案を行う
- この書籍ではプロポーザルに参加した6組の建築事務所が掲載されている
- 構想との適合性が高いと認められた建築家による"最終提案"が行われる
- 最終提案第3次案の提出を経て、梓設計の設計案が採用されることに
- 梓設計梓設計
- 江東区教育センター・江東区立東陽図書館等の設計を行なっています
- 江東区教育センター・江東区立東陽図書館│作品詳細│梓設計
- 公共建築賞建設大臣表彰(1990)
CCCがこれから目指すもの
- 代官山蔦谷書店、函館蔦屋書店を継承する店舗を、全国に100店舗つくる
- ローコストで成功することで、100店舗を「本気で」創出する
- 生活提案を売る書店へ
- 単なる書籍や雑誌という物体ではなく、"提案"を店内に陳列したい
以上、『文化の樹を植える。「函館 蔦屋書店」という冒険』のsatkapの関心に引っかかった部分のまとめ・引用でした。
以前函館蔦屋書店について書いた記事でわたしは
ライバルは本屋というよりは、ショッピングモール、という意識なのかなーとか思いました。
と述べましたが、
この図書を読むと、ライバルはショッピングモールどころか、
「函館におけるすべてのエンターテイメント」
ですね。
しかも、それらと潰し合いを行うつもりはなく、
"コミュニティの拠点・再生となる場"
を目指しているということで、もはやライバルですらないと。
CCCはどうやら函館蔦屋書店をはじめとして、これからこの形式の店舗を全国展開しようとしていますが、
この図書でも繰り返し述べられ、重視されていると思われるキーワードが、以下の様なワードです。
- まちづくり
- 文化の拠点
- 複数の異なるコンテンツとの融合
- カフェの併設
- 人々の交流が生み出される場づくり
- ニーズに応えるのではなく、ニーズを作り出す
さて、上記のようなキーワードが繰り返し述べられている記事を、
どこかで最近読んだことがあるなーという、図書館クラスタのみなさんも多いのではないでしょうか。
そう、ソトコトの2013年5月号、おすすめの図書館特集です。
SOTOKOTO (ソトコト) 2013年 05月号 [雑誌]
- 出版社/メーカー: 木楽舎
- 発売日: 2013/04/05
- メディア: 雑誌
- この商品を含むブログ (3件) を見る
全国のいま注目されている図書館をとりあげたこの特集。
各図書館の特徴、コンセプトとして、
まちづくりの拠点機能、人々のつながり、ライフスタイルへの新しい提案、といった文言が何度も登場します。
あと、カフェの有無。
また、本書『文化の樹を植える。「函館 蔦屋書店」という冒険』のなかで
CCCの考える、函館蔦屋書店と武雄市図書館の関係についても言及されています。
両者は「代官山 蔦屋書店」を親に持つ、双生児のような存在
これから、そんなさまざまな生活提案を含んだ空間を、日本中に植樹しに行きたい。そこには「武雄市図書館」のような図書館も、数に含まれるかもしれない。もちろん、函館に続く『蔦屋書店』もある。
と述べられています。
なるほどー。
当然ですが、CCCが本書のなかで述べている蔦屋書店全国展開の構想と、近年の図書館が目指している運営の姿とが一致しているのは、ただの偶然ではない。
CCCがこれから地方都市において、どのような展開をみせるのか
地方都市では武雄市図書館の注目っぷりをうけ、どんな変化がおこるのか。
偶然にも、今朝4月29日の北海道新聞に掲載された卓上四季*1では「図書館と書店」という見出しで、武雄市図書館と、ソトコト図書館特集に触れた記事が掲載されています。
そのなかで、以下の様な文が書かれています。
ここに共通するのは、書店との境界が極めて曖昧になっていることだ。話題性だけ競っていいはずもない。ちょっと立ち止まり、その将来を考えてみよう。
いやほんとにおっしゃるとおりで。
最後に、函館蔦屋書店の設計を行うことになった
梓設計の田村慶太さんが本書で述べている言葉を引用して、終わりにしたいと思います。
本来、コミュニティ再生とか創生とかといったものは公共が担うべきものであって、一民間企業であるCCCのしごとではない。しかし真剣にそこに取り組もうとしてるわけです。そして日本の地方都市に、コミュニティの核としても機能するようなカルチャーの集約施設としての『蔦屋書店』を100店、将来的には建設したいという。我々は公共施設の仕事にも多く携わりますが、公共の発想というのはどうしても"こういう施設を創らなければならない"という必要性に押し出されてのものになりがちなんです。だから、事業として積極的にそこにコミットしていこうという姿勢には魅力を感じました